21歳の僕のインド旅行の理由
2000年2月、僕はインド旅行に出かけた。当時僕は21歳の大学生だった。
インドに行こうと決めたのは前年5月頃だった。
ふと暇つぶしに図書館でインド旅行記の本を読んだのだが、それにいたく感動したのだ。
詐欺師との戦い、激安ホテルでの生活、トラブルを度胸と運で乗り切った話など、日本でお地蔵さんのように静かに暮らしていた僕には刺激的だった。それから他にも多くのインド旅行記を読んで、遥か遠くのインドに思いを馳せ、胸踊らせていた。
これらの本の著者はそれほど特別な人達ではなかった。だから誰でもインドを旅行すればあのようなドキドキワクワクするような経験ができるのだと思った。
努力や才能といった話ではなく、インドに行くだけで本に書いてあるような冒険ができるなら、僕にだってやれるんじゃないか。
英語は出来ないし不安もあるが、それでも思い切ってインドに行ってみよう。僕にとっては人生最大の一大決心だった。
それから僕はインド旅行を意識して英会話を勉強し始めた(しかし大して上達しなかった)。
大学の春休みに旅行する計画だったので、12月頃になっていよいよ具体的に計画を立て始めた。
まず金だ。
飛行機代で8万円、現地の旅行費で5万円、旅行用品代もかかるだろうし、大体15万円ぐらいは用意したかった。
僕は家賃1万8千円のボロいアパートに住み、食費は一日500円の典型的な貧乏学生だった。15万円は大金である。
しかし、冬休みに短期バイトするつもりだったし、旅行前には餞別も貰えるだろう。また、貯金も少しはあったので金は何とかなると思った。
一方、大学の期末テストの日程がはっきりしなかったので、年を越えても具体的な日程を決めることが出来なかった。
この頃、現実的にインド旅行を考え始めると少し怖くなっていた。英語も相変わらず出来ないし、海外に一人で行って大丈夫だろうか。いままで楽観的に考えていたが、よく考えるとこれはかなり危険な行為だ。これまでと違いインド旅行を無邪気に夢見るのではなく、不安に思うことが多くなってきた。
結局、テストの日程がはっきりし、飛行機のチケットを買えたのは1月末になってからだった。しかし、これは遅すぎた。安いエア・インディアの便はもう満席だった。残された全日空の便だと10万円を超えそうだった。10万を超えるとキツイ。しかし、4件の旅行会社を回ったがどこも同じような価格だった。
色々検討した結果、2月20日関空発、3月30日ムンバイ発の往復チケットを99800円というギリギリ許せる価格で購入した。
旅の計画だが、広いインドを一周したかった。なので、できるだけ長い時間インドに居たかったが、学業もあるし、40日が限界だった。
チケットを買うときはかなり緊張した。いよいよこれで後戻りできなくなると思うと怖かった。
一人で40日間もやっていけるのだろうか。出発までの日々、何度自問自答しただろうか。しかし、もやはこの時点でその問いはナンセンスだった。チケットも買ったし、もうやるしかないのだから。
そう思っても、割り切れない。日を経るごとに不安は広がり、深くなっていった。普通、旅行に行く前ってワクワクするものであって、不安にさいなまれるのは不自然だ。もしかしたら僕はとてつもなく大きな間違いを犯していて、それを本能が警告しているのかもしれない。
しかし、準備は進めた。荷造りは大変ということはなかったが、面倒くさかった。せっかく買った寝袋はリュック(36L)に入らず、置いていく事にした。荷物は最小限にしたいと思うのだが、心配なのでついつい荷物が増えていってしまった。結局全部で7.5kgになった。8kg以内に収めようと思っていたのでひとまず合格だが、これを背負って歩きまわるとなると少々重いかもしれない。大丈夫だろうか。
また、現金をトラベラーズチェックに変え、父から餞別で500USドルをもらい、ビザを取ってほとんどの準備が整った頃、少し心も落ち着いてきた気がした。ようやく心の準備もできたからだろうか。
でもやっぱり、出発前夜はほとんど寝れなかった。もう覚悟は出来てるはずなのに、やっぱり緊張した。
そして夜が明けた…。
【13年後のつぶやき】
未熟さを自覚しながらも、困難に挑む姿勢は良い。
しかし、やっぱり当時の俺はボウヤだった。色々と甘い。旅行費用に餞別とか当てにすんなよ(笑)。