2月20日:インドへ出発!





朝6時半に起床し、7時には準備ができた。父が車で関空まで送ってくれた。
両親が見送るなか、出発ゲートをくぐった時、僕はついに一人ぼっちになった。そしたら足が震えた。不安というレベルではなく、本能的にヤバいと思った。
しかし、後は前に進むだけ。

おそらく、この一日がこの旅行の最大の難関になるはずだ。インドに到着して両替してタクシーで街まで行ってホテルを探してそこに泊まる。どれも初めての経験だが、1度経験すれば2度目以降は簡単にできるはずだ。だから今日さえ乗り越えれば、後はなんとかなると思っていた。明日の今頃は元気にムンバイの街を歩いているだろうか?僕のイメージでは確かにそうなっている。自分で決めたことを淡々とこなせばいいのだ。何をしたって時間は過ぎてゆく。流れに上手く乗ればいいのだ。
などど、飛行機の中では自分を励ましていた。

そして、自分がインドに来た目的を再確認していた。
別に高尚な目的があったわけではない。言ってみれば単なる観光旅行だ。貪るように読んだインド旅行記のように、日本では考えられないような冒険をいっぱいしたかった。そして、自分を鍛えたいという気持ちもあった。これは冒険であり、修行の旅でもあった。だから怖くてもインドに行くのだ。40日間はトラブルの連続だろうが、それを乗り越え、日本に帰るときには僕はどれほど強くなっているのだろうか。そして、英語も話せるようになってたらいいな。
まあ、色々と期待するところはあるのだが、期待し過ぎないようにしようとも思っていた。修行だ何だと、あまり力みすぎずにリラックスしていきたい気持ちもある。
機内食はまあまあ美味かった。機内食を楽しめるなんてなかなか余裕があるじゃないか。いい感じだ。インドにおいても苦しい場面でも余裕をもって振舞えたらいいな。

あと、僕が恐れているものは、泥棒、病気、会話(英語)だ。会話は逃げることが出来ないし、やるしかない。しかし、40日間荷物を盗られなければ、寝こむほどの病気をしなければ、この旅行は成功といえると思う。運のあるなしより、自分の行動が結果に結びつく。これから7難8苦どころか70難80苦が襲うだろうが、修行の旅だし、こうなったら何でもかんでもかかってこい、と心のなかで、しかも小声で叫んでいた…。

機内では色々と考えたり日記を書いたりしていたが、時間はあっという間に過ぎ、いよいよインドに到着した。僕は高まる緊張を抑えつつ飛行機を降りた。現地時間では夕方だった。
入国審査は何も言われず3分で通過。そして、第一の関門の両替。ここで100ドルをルピーに変えた。両替の人を信用せず、自分で札を数えて金額を確認した。このあたりは本で予習してある。

さて、次の難関はプリペードタクシーで市内に行く事である。誰か自分に似たような旅行者を見つけて一緒に行こうかと思っていたが、しばらく待ってもそういう人は見当たらなかったので一人でいく決意をした。カウンターでインド門までRs280と言われて支払ったのだが、後でレシートを見るとRs263と書いてあった。いきなりボッタクられたわけだが、その時はそれに気づく余裕はなかった。
とにかく、料金を支払って、前に進んだのだが、いつの間にか少年がよってきてタクシー乗り場に案内してくれた。ご丁寧にドアまで開けてくれたが、当然それは金をもらうことを期待してやってるわけで、最後になにかいいながら手を差し出してきた。僕はI can’t understand, sorry.とだけ繰り返していたら、彼はあっさり諦めた。

タクシーには無事に乗れた。しかし、ドライバーは英語が話せないようで、ヒンディー語か何かで、僕に何かを言ってきた。状況から多分目的地を訊いているのだと思って、Gate of Indiaと言ったら一応納得したらしく、走りだした。
ドライバーはかなり乱暴で、クラクションを鳴らしながら僅かな隙間にガンガンつっこんで前に行こうとしていて、軽くカルチャーショックを受けた。

ムンバイはインドのニューヨークと言われているらしいが、空港周辺はスラムだったし、新しい建物もあるが、古い陰気臭い建物も多い。
しかし、街の中心に進むに連れ、街は綺麗になっていった。
そろそろ目的地かという時に、ドライバーはまた何か言ってきた。ホテルを訊いているのだろうと思って、インド門周辺にあるタージマハルホテルと言ってみたら、そこで止まって下ろしてくれた。

タクシーに乗ったときには日は沈みかけていたが、目的地に着いた頃にはもう暗くなっていた。初めてのインドで、夜の街に一人ぼっち。僕はものすごく焦った。
これからホテルを探すわけだが、見つからなかったらこの立派なタージマハルホテルのロビーで過ごそうかとも思った。
しかしまあ、不安ではあるが勇気を振り絞ってホテル探しを始めた。
もう夜だったのですぐに決めたかったから、まず目についた安そうなホテルに行ってみた。インドで初めて本格的に英語を使う場面だったので、大いに緊張した。しかし、そのホテルはIndian onlyだそうで、断られてしまった。ものすごく気合を入れてそのホテルに入ったのにいきなり失敗してしまって、僕はテンパッてI’m sorryを3回ぐらい繰り返した。その様子が微笑ましかったらしく、フロントのおじさんは笑顔で「こっちがI’m sorryだよ」と言った。多分。
仕方ないので、暗くて道がよくわからないが、地球の歩き方に載っているIndia Guest Houseに行ってみることにした。というのも紹介されているムンバイのホテルで最も安かったからだ。首尾よく少し歩いたらたどり着いた。再び勇気を振り絞ってアタックしたら、部屋に泊まれた!英語も一応通じた。マスターは愛想がよく、他に泊まっていた日本人女性旅行者を紹介してくれたが、挨拶をした程度であまり話さなかった。

Rs280と安いホテルなので、室内はぼろくて狭かった。でも僕にとっては泊まれるだけで十分だった。
荷物を下ろして、鍵を閉めると、ようやくほっとできた。激動の1日目が終わった。本当に、本当に大冒険だった。でも今日は幾多の難関をすべて突破したぞ。100点だ。
しかし、明日からも試練は続くはずで、それを考えるとまた緊張した。

窓の外からは車のクラクションの音がひっきりなしに聞こえてくる。部屋の中もかすかに排ガスの臭いがする。
しかし、この夜僕は十分満足して寝ることができた。

【13年後のつぶやき】
本当にこの人、気の毒なほど緊張しちゃってます。今と違いすぎて他人のように感じる。
今の俺ならタクシー乗るのもホテルを探すのも、すべて楽勝だ。面倒くさいとは思うが、まったく緊張はしない。
しかし、こんなことでハラハラドキドキできることは若い頃の特権だと思う。大人になるって色々経験をつんで成長することだと思うが、失ってしまうものだってある。
当時の日記を読むと、あの頃はあの頃で良かったと懐かしく思う。


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