3月28日:退院。そして病名判明。
退院の日。ある看護婦が「私も日本に連れて行って」と言ってきたので、「飛行機のチケットを持ってるのならいいよ」と答えたら、大喜びで、他の看護婦達と盛り上がっていた。何が面白いのかよくわからん。
正直言って、体はボロボロで歩くのもつらい状況だった。しかし一応、僕は病気が治ったことになっているので、必死に元気なフリをし続けた。
そして、最後に医者に数千ルピーを支払って、握手して別れた。その時にカルテをもらった。そこに検査結果も書いてあるようだったが英語だったし、その時は読まなかった。
駅までは職員が送ってくれた。しかし、こいつが面倒くさい奴で「いいアルバムがあるのだが、10ドルで買ってくれ」と車の中で言い出した。そんなもん要らないし、リュックもパンパンだったので隙間がない。強く断ったのだが、大丈夫の一点張り。しかし、ここで揉めて駅に行ってくれなければ日本に帰れない。仕方ないので「じゃあアルバムは要らん。でも10ドルはやるから駅に行ってくれ」と頼んだ。そしたら、それはダメらしく、結局アルバムを渡された。無理やりリュックに入れたが、ムンバイで捨てた。
しかし、その後はやることはやってくれた。駅に到着して、僕が座る席まで案内してくれた。そして周囲の乗客に、こいつ体調悪いからムンバイまでよろしく頼む、みたいなことを言ってくれた。
電車の中では、しんどいのでずっと上の寝台にいることにした。そして、そこでカルテを読んでみた。知りたいのは病名だった。「Typhoid fever」と書いてある。分からなかったので電子辞書で調べてみた。
「腸チフス」
なるほど、そうきたか。チフスについてはよく知らないが、割とメジャーな伝染病ではないか。
その電子手帳には辞書機能もあったので腸チフスについても調べることができた。
●腸チフス保菌者の糞便に汚染された食物や水で感染する
●潜伏期間は7~14日
●病状は、高熱、頭痛、体のダルさなど。下痢のケースは少なくむしろ便秘になる。
●概ね3~4週間で自然回復する
腸チフスの特徴は大体以上のとおりだ。
いつ、何が原因で感染したのか分からない。6日目にデリーで発病したが、潜伏期間からして、あれは腸チフスではなかった可能性が高い。デリーで病気になって、体力が落ちた時に、変なものを食べてしまって腸チフスに感染したのではないかと推察した。カレーはすべて火が通っているしそれが原因とは考えにくい。あるとすれば、よく道端で売ってる生ジュースを飲んでいたが、あれが怪しいか。
病状に関しては僕の場合かなりひどい下痢なので、腸チフスだけではなく、別の病気が合併しているかもしれない。
また、3~4週間で自然回復するとのことだが、入院してから2週間ぐらい経つし、もしかしたらもうすぐ治るのかもしれない。
そして、腸チフスは基本的に治る病気であって、致命的な病気じゃないらしい。これにはホッとした。医者も初めから教えてくれたら、死ぬ恐怖に怯えなくてすんだのに。
しかし、そうは言うものの、僕の体調は最悪で、体のダルさからすると、やっぱり死ぬかもと思った。自分の魂というものを常に意識してないと体から離れてしまいそうだった。
日本まではまだ時間がかかる。気は抜けなかった。
【13年後のつぶやき】
一応病名は腸チフスだったのだが、日本で検査したら、それ以外にも多くの種類の病原菌が見つかった。様々な病気にかかっていたらしい。